来日50周年記念 パウル・バドゥラ=スコダ ピアノリサイタル 東京オペラシティ 2009年10月09日
本日は、オーストリア出身のピアノの老大家パウル・バドゥラ=スコダのリサイタルに新宿オペラ・シティに行って参りました。
曲目は、
- ハイドン:「皇帝讃歌」による変奏曲
- ハイドン:ピアノソナタハ短調 Hob.XVI-20
- ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番ハ短調 Op.111
- マルタン:フラメンコのリズムによる幻想曲(バドゥラ=スコダに献呈された曲とのこと)
- シューベルト:4つの即興曲 D.899
コンサート後に急ぎの用があって、すぐに席を立たざるを得ず、アンコールの曲目まで残れなかったのが残念でした。
スコダの経歴やディスコグラフィ等々は、公式ホームページに英語・ドイツ語が用意されてあるので、ぜひご覧ください。
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スコダの様な演奏を聴くと、人によっては、余り変化がなくて面白みがないと感じる方もあるかも知れません。けれども、大げさな身振り手振りで自分を演出したり、強弱やテンポの緩急の派手なコントラストで判りやすい面白さを作ったりといったことなしに、きちんと普通に聴かせる・・・こういう演奏家もいざ探すと昨今決して多くもないもので、ずいぶんと楽しめました。
淡々と弾いているですとか、老齢で力が抜けて・・・なんて言い方をすると「余計なことは何もしない」と思ってしまいます。けれども、余計に感じさせないようにしながら、曲の全体の流れをクライマックスまでどうもっていこうかですとか、音色の変化をどうこうですとか、細やかな情緒的な表現ですとか、実際はいろいろなことがあって、余計なものがないというよりは、豊かだからこそ、喜んで拍手を送った方が多かったのだと思います。
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これを機会にいくつか手に入りやすいスコダ録音や著書をご紹介致しましょう。スコダの録音も長らく在庫切れや廃盤が多かったのですが、今年再発が増えています。
今月10月13日発売予定で、現在予約受付中のものが
輸入版 ベートーヴェン ピアノソナタ全集(9枚組)
パウル・バドゥラ=スコダ(pf)
1969〜1970録音
全集なので、本日演奏された第32番 Op.111も収録。楽器はベーゼンドルファーなので現代ピアノ。
スコダは楽譜の考証、手稿譜・手紙のその他手記の検討などにも、有名ピアニストには珍しいほど熱心に研究を行っております。それは楽器についても同様で、現代ピアノの大家としてはいち早くフォルテピアノに関心を示し、録音も各種揃っています。モーツァルトのソナタ集のスリーブノートに、スコダ自身がフォルテピアノに驚いた時の感想が率直に書かれてありました。
輸入版6枚組 モーツァルト:ピアノ・ソナタ集
パウル・バドゥラ=スコダ(フォルテピアノ)
拙訳で恐縮ながら・・・
それまで私は、フォルテピアノという一見primitiveな楽器を軽んじて、この楽器を使う事は単に歴史的興味をもたらすものでしかないと云う一般的な 偏見を同じゅうしておりました。しかし、(Ahlgrimm女史の)この一連の私的演奏会を通じて、これこそ真性の響きなのだと、また、同じ解釈で弾いたとしても、コンサート・グランド・ピアノで弾くよりも、ここでは作品が親密さにより触れているのだと、私ははっきりと確信しました。響きの銀色の明瞭さ、 registerによるニュアンス付け、デュナーミク変化の段階の繊細さ、それにもまして middle registerによる甘く高貴な音色といったら実に比べるものなどないほどです。
上の感想はまったくその通りだと自分も聴いていて驚いたことがあります。まだまだフォルテピアノも物好きな人のためのジャンルとおもわれがちかも知れませんが、だまされたと思ってぜひお試しを!
上のモーツァルトの他には、本日の演奏曲とは異なりますが、ハイドンの曲で一枚物のフォルテピアノ録音あり。
輸入版 ハイドン:ピアノ・ソナタ&変奏曲集
パウル・バドゥラ=スコダ独奏
使用楽器:スコダ所有のJohann Schantz製作のフォルテピアノ
そして、なんといっても、スコダのフォルテピアノというとシューベルト。ソナタ全集がやっとの再発売になりましたので、今のうちにぜひどうぞ!楽器と曲の特性が大変マッチしていると思います。
輸入版9枚組 シューベルト:ピアノ・ソナタ全集
パウル・バドゥラ=スコダ独奏
使用楽器:Donath Schöfftos (c.1810)
Georg Hasska(c.1815)
Conrad Graf 432(c.1823), 1118(c.1825), 1118(c.1826)
J.M. Schweighofer(c.1846)
かつて三枚組が3セットでリリースされた録音が、大変安価な9枚組となって再発売!
シューベルトのソナタの全曲録音というと、意外と過不足ないものが少ないと思います。有名なケンプの録音ではちょっと音の柔らかさに重点が置かれすぎていて、ふわふわし過ぎ、シフの録音は個性が強くてあまり全体の流れがスムーズに感じられない・・・などとお感じの方には、このバドゥラ=スコダの録音が良い選択肢になるのでは/
フォルテピアノのシューベルトというと、フォルテピアノ専門のマルコム・ビルソンの録音もあります(弊ブログのこの記事 http://sergejo.seesaa.net/article/113467208.html で簡単にご紹介しております)。フォルテピアノというものも専門家の話を伺うと、きちんと鳴らすことでさえ現代ピアノとやり方が随分違ってなかなかうまくいかないそうです。ビルソンとスコダが、それぞれフォルテピアノをどう鳴らせているのか、その楽器の扱い方の善し悪し・・・というところは、私にはよく判らないのですが、情緒や幻想的な味わいを好まれるなら、スコダの録音の方に歩があるのかも、、、ただ、こういったことは好きずきで難しいところですので、軽く聞き流してくださいませ。
スコダには著作も多くありますが、昨年漸く邦訳の出た名著がこちら。
パウル・バドゥラ=スコダ著
『バッハ 演奏法と解釈 ピアニストのためのバッハ』
全音楽譜出版社
専門的かつ浩瀚な書籍で、私にはこの内容全部がすらすらわかるものではありませんでしたが、相当に面白い著作でした。文章自体は読みやすいのでぜひに!とおすすめです。
この書籍の中でスコダは、考証学的検討をどう行なえば良いのか、その成果から逸脱する事なしに、どうやって自分の演奏ができるのかを細部にわたって考察します。「これが○○の正統!」「○○の神髄!」等々と宣伝文句で謳われる名演奏家の特徴も批判的検討がなされてありますので、この本を片手にそれらの名録音をいろいろ聞き直してみても面白いかと思います。
スコダの著述にあたっての態度なり精神は、「これが正しい答えだ」と確定するものではありません。日々進められる研究成果によって答えはときどきに変わりうるもの。その日々の成果をどう取り入れて自分で考えてすすめていくか、その方法論を示すものです。よって、結論だけが断定的に述べるということはいたしません。こういった資料があって、そこからこう検討して、これこれこう考えましたと懇切丁寧に書かれてあります。これも大変よいところ。
ごくごく普通の愛好家は、それほど資料の検討に時間も予算も費やしがたいと思いますが、この本を読むと、自分に可能な範囲であっても、よりさまざまに楽譜・史料集めてあれこれと考えてみよう、そんな気にさせてくれます。
では、また!
2009年10月のちょっと気になったクラシック音楽TV番組ご紹介
10月に入ってしまいましたが、今月の番組のサイトurlをリンクさせてのクラシック系TV番組の一言ご紹介です。NHK関連ばかりなのは、単に一ヶ月のクラシック関連番組表をネット上に用意しているが故であります(BS2とBS hiの総合案内はこちら、http://www.nhk.or.jp/bsclassic/index.html)。
番組名がそれぞれの番組のwebsiteにリンクしておりますので、ぜひクリックの上、詳細をご確認ください。
では、まずは、地上波とBS2から。
教育テレビ N響アワー 毎週日曜 21:00-22:00
教育TV 芸術劇場 毎週金曜 22:30-
N響アワーでは、クリストファー・ホグウッドの出演が多くなっております。ホグウッドというと私がお小遣いも増えて、本格的にクラシックを聞き出した頃に、颯爽と登場して懐かしい名前。その頃、話題になったモーツァルトの交響曲の一連の録音はいま安価のBoxで販売されております。
DECCA19枚組
クリストファー・ホグウッド指揮
The Academy of Ancient Music演奏
モーツァルト交響曲全集
現在でも、いわゆる"古楽"演奏によるモーツァルト交響曲録音の筆頭のおすすめに選ばれるもの。
このホグウッドの録音、発売当初高くて手を出せなかった方が沢山いらっしゃるかと思います。この廉価版が出るのも随分長く掛かりました。
芸術劇場では、「ユニークさ」が話題のプレトニョフ登場。序でながら、「ユニークさ」の内容−どこがどう変わっているか、なにを意図しているか−が詳しい方によってもう少し語られるようになると、いろいろ見通しが開けるのになぁ・・・などと、私のような聞いているだけの受け身ファンは他力本願に思ってしまいます。
BS2 クラシック倶楽部 毎週月曜〜木曜 10:55-11:50
BS2 クラシック ロイヤル シート 毎週月曜 01:00頃〜04:00頃(言い換えれば、日曜の深夜25:00です)
後者、クラシックロイヤルシートの10月19日の放送で、昨年末来日してアルゲリッチとも共演したドゥダメルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラの日本公演録画放送あり。同日、彼らを生んだベネズエラの音楽教育システムのドキュメントも放送。数ヶ月前にHivisionで放送されていたかと思います。
余談ながら、世界の経済が多極化に向かうというころ、南米ベネズエラからこういう動きがでるというのは中々面白いもの。クラシックと政治的な動きにもなにか関連したものがあるのかなぁなどと思ってしまいます。
BS シンフォニー アワー BS2 毎週金曜 10:00〜
BSシンフォニー アワーは、BS2とHivisionと二つあって、内容が違いますのでご注意を(websiteは同一)。
以降はBS hiの番組からピックアップです。
BS hi ハイビジョン・ウィークエンド・シアター 毎週土曜 23:00頃〜
バレエを取り上げる事が多くなっているようです。今週10月10日の放送が、弊ブログで前回取り上げたショスタコーヴィチのバレエ《ボルト》の放送(http://d.hatena.ne.jp/Look4Wieck/20091005/1254736552)。内容もまったく同一で、2006年のボリショイバレエの30余年ぶりの再演の録画です。
Hivisionをご覧になれる環境でしたら、DVDを購入前に放送をご覧になられた方が宜しいかと。気に入ったら、弊サイトorブログからご購入いただければ幸いです。
BS hi ハイビジョン クラシック倶楽部 毎週月曜〜金曜 06:00-06:55(再放送は、翌週月曜〜金曜 13:00-13:55)
連日さまざまな演奏家が登場致します。詳細はリンク先でお確かめください。
では!
ショスタコーヴィチ:バレエ《ボルト Bolt》見てみました
2009年10月7日注:このDVDに収録されたものと同じ内容の公演が、2009年10月19日(土)放送のNHK衛生 HiVisionのウィークエンド・シアターで放送されます。
元のブログ(http://sergejo.seesaa.net/)が今年に入ってからあまりに検索hitが少ない・・・ので、あれこれ考えたもののどうしようもなくなりまして、気分転換も兼ねて、はてなに移転致しました!しかしながら、「そもそも内容がない!!」のが原因である可能性が高く、なんであります!
なにはともあれ、そこそこ広く&ますますゆるく書いて参る所存・・・と少し固くなりましたが、今後とも、どうぞよろしくお願い致します。
先月、9月25日が西暦でのドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)の誕生日だったので、それに合わせてちょっと見てみました・・・というのが、本日ご紹介する二作目のバレエ《ボルト Bolt》。1930年から1931年の作曲。
すっかり10月に入って、時期を逸してしまいましたが、どんな内容かと申しますと・・・
◎ショスタコーヴィチ:バレエ《ボルト Bolt》のあらすじ
Nastya(♀)と別れたばかりのDenis(♂)は、失恋の痛手で何もかも身が入らず・・・運営開始されたばかりの新工場でもへまをやって、追い出されてしまいます。
飲み屋で半ば自暴自棄のDenisは、心配して駆けつけたNastyaにも粗暴にあたり、同じくなんとかしようとやってきたYan(♂。工場の管理者側でしょうか)にも乱暴をふるう始末。
逆境の原因を自分に求めずすっかり逆恨みのDenisは、みなし子のIvanshka(♂)のもっていたボルト(ナットとボルトのボルトです)に目をつけ、これで工場に細工してしっちゃかめっちゃかにしてやろう!!と、夜にIvanshkaと共に工場に忍び込みます。
そんな悪巧みのさなかにふとあらわれたYan。Yanに見とがめられDenisの計画は未遂に終わりますが、DenisはYanが工場破壊を企んだと嘘の進言。連行されるYanですが、みなし子のIvanshkaはその様子を見てすっかり改心し、真犯人はDenisであると告白します。Denisが連行され、YanとNastyaが新たに恋仲に収まる中、Ivanshkaにも新しい未来が開けて・・・ここから最後の幕が開いて、踊りの激しいグランドフィナーレになるのは定石ですが、Ivanshkaの夢の中、彼は赤軍の英雄となって云々と最後の場面は筋書きはあってないようなめまぐるしい舞台です。
◎ボリショイバレエによる30年ぶりの《ボルト Bolt》再演DVD
私がみたのはこちらのDVD。2006年に、初演から30余年ぶりにボリショイバレエによって再演された舞台を収録。今現在、ただ一つの《ボルト Bolt》の映像パッケージ作品。
輸入版ですが、All Region NTSC。字幕は英・仏・独。特典映像として、ショスタコーヴィチの簡単な伝記ドキュメントと本作品の振付師や指揮者へのインタビューが30分程入っております。
さて、この《ボルト Bolt》も結構諧謔味があって、楽しい作品。音楽はいかにもショスタコーヴィチのこの手の作品という感じです。そもそも、あらすじの通りで、いかにも正義の味方のYanとヒロインNastyaが単純明快にくっつくのもあれっという展開ですし、Ivanshkaの密告を素直に誉めるべきか中々難しいところ。この頃のロシア、否、ソ連ですから、あらすじにもいろいろ制約があったことでしょう。ショスタコーヴィチがそれぞれの場面に付けた音楽に、表には言えない心境がちらちらと伺える気も致します。
全体的には、
やはりバレエ作品なのでバレエ好きの方にはより楽しい!
作品と思います。私もバレエは門外漢ながら言ってしまいますと、ボリショイバレエと言えば!の日本の岩田守弘さんがIvanshka役で登場。相変わらず、高いジャンプで軸が奇麗です!一度モスクワ旅行中に舞台を拝見したことがあるのですが、その時の舞台の様子も思い出されてちょっと懐かしい思いでした。岩田氏についてご興味あれば、こちらのインタビューなどどうぞ!
http://tumjpn.blog48.fc2.com/blog-entry-35.html
振付師は、Alexei Ratmanskyという方。どこまで当時の再現で、どこまで同氏の解釈か不明ですが、当時の政策・世相を風刺している感は確かにあって、こんなもの上演して危なくなかったのでしょうか・・・?最先端のモダン・バレエほどでもなく、ほどよくクラシックなテイストと言ってよいのでしょう。結構、笑ってしまうもので、第一幕ではロシアの美男美女が体育着でラジオ体操したり・・・そういうご趣味のかたには確実に満足いただけ、、、(以下略)*1。
なお、本作品スリーブノートには上演禁止から30年後の再演!といった内容が書いてありますが、手持ちのローレル・E.ファーイによる伝記 『ショスタコーヴィチ ある生涯 改訂新版 (叢書・20世紀の芸術と文学)』を確認したところ、政治的に不穏当で上演禁止になったのか、単に人気が出ずに上演されなかったのかなんだかよくわかりませんでした。
かくなる次第で、CDで全曲盤を聞くなら、舞台収録盤であるこのDVDの方がいろいろ楽しみやすいと思います。
には、安心しておすすめできるものかと。
DVDで見るのではなく、ちょっと聴いてみたいという方には、作曲者自身が組曲化しているので、それで良いやも知れません。例えば、
ロジェストヴェンスキー指揮 BBC LEGENDS、チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」/ショスタコーヴィチ:バレエ音楽「ボルト」他
ヤブロンスキー指揮/ロシア国立響 ショスタコーヴィチ:ジャズ組曲第1番, 第2番/バレエ組曲「ボルト」/タヒチ・トロット
DECCA9枚組 ショスタコーヴィチ協奏曲・管弦組曲・室内交響曲集
などなど。
ではまた次回!
*1:所謂ブルマではなくかぼちゃ短パンですので、そこまでご趣味の鋭敏な方向けでは・・・以下略