いろいろと考えさせられる本でした 1of 3:中藤 泰雄 著『音楽を仕事にして』
最近、コンサートに行こうかなと思いつつ、なんとなく億劫になっております。理由はいろいろあって、たとえば平日の夜、コンサート後にちょっとコーヒーでも飲んだら満員電車の時間になってしまいます。酔客にもまれて帰るのも嫌だなぁ・・・というどうでもいいと言えばどうでもいい事情もあれば、安いチケットはなんだかずいぶんな席で、ホールによっては終止からだをねじらないといけないし、端の席だと音もどうだったりですとか・・・
チケットの価格で言えば、バブルの頃よりもS席のチケット代は幾らか下がった様子ながら、S席・A席の範囲がやたらと広がっていまいか・・・気のせいでしょうか?
・・・とそんなことを考えながら、そもそも日本のコンサートは戦後どういう経緯を辿ったのだろうという興味から読んでみた本が、中藤 泰雄 著『音楽を仕事にして 日本の聴衆に、この感動を伝えたい』。これが中々面白い本でした。
海外演奏家の招聘を主な仕事としている(と思っておりました)ジャパンアーツの創設者 中藤 泰雄氏の著書で2008年末が初版。戦後海外通信社の一部門として事業が始まり、後に独立した同社が、中藤氏ほかの社員の方々の熱意で、演奏家・演奏団体と信頼関係を気付いて、紆余曲折たびたびの危機も乗り越えながら、発展していく姿を描いた回想録。
スメタナ四重奏団やリヒテル、ロストロポーヴィチ、キーシン、ツィンマーマン、クラシック音楽以外でもスペインの舞踏家のガデスらとの出会いがつぎつぎと語られます。
敬服するのが副題にある「日本の聴衆に、この感動を伝えたい」という想い。自らの耳と目でまず接し心底感動してこそ、招聘事業はうまくいくのだ・・・現在当たり前のように享受している来日公演の裏のさまざま苦労を知ることができます。
同社が短期的ビジネスの視点にばかり組せずに、招聘団体やその演目の選択にも冒険心をもって望み、また公演のみならず、日本でのマスターコースの開催、日本の演奏家の海外紹介などにも関わっていたことは、わたしも余り意識したことがなく目から鱗の話でした。
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この著作
『音楽を仕事にして 日本の聴衆に、この感動を伝えたい』
中藤泰雄著
ぴあ
256頁
が楽しめる方は、多分、
なども好まれるかと思います。私自身もその一人です。逆もまたしかりで、後二者が好きな方には中藤氏の著作も楽しめるかなと。中藤氏の著作のような大局的視点よりは、河島氏と音楽家との個別の交流の話になりますが。
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昨今の不況のせいか、演奏会も空席が目立ちますし、会場には年配の方が大半。不況でなくったって、30代、40代は仕事や子育てで忙しいですし、日本の企業風土では平日に演奏会など望むべくもない(というのも、実は異常なことだと思います・・・)。先日も友人と、このままだと10年後、20年後にクラシックのコンサートのお客さんどうなるのかなと話したところです。
さて、中藤氏が今後の課題として本書の中でたびたび触れる事柄がありますが、それらは我々にも望ましく興味深いものでした。記憶に残るものを挙げれば、
などなど。特にチケット代の引き下げは聴衆として嬉しいかぎりですが、これが税制の問題もあって難儀だそうです・・・この詳細は本書でぜひお確かめを。
本書に関係あるようなないようなことですが、私がなんとなく思うのが、「クラシック音楽のコンサートが特別なハレの舞台で、大金を払って、世界一の誰それの演奏を聴いて、大きな感銘を受ける」というスタイルがさすがに今世紀になって変わってきたのかな・・・ということ。
音楽に限らず、それこそ映画でも、食べ物でもなんでもそうですが、「これが日本一!世界一!みなが注目!!」と喧伝される”スター”を追っかけて、あぁそうだと納得しているのかどうかはともかく、そこに大枚はたいて満足する・・・そんなスタイルは今後も続くのか、そもそも、いつそれははじまったのか・・・
そんなことを考えるにちょっと面白い本があって、それは録音時代の初期の名ピアニスト ベートーヴェンのソナタ全集をはじめて録音したアルトゥール・シュナーベルの著書
アルトゥール・シュナーベル著『わが生涯と音楽』
白水社
ちなみに写真がすごいメンバーで、
左からフーバーマン(Vn)、カザルス(Vc)
シュナーベル(Pf)、ヒンデミット(Va)
なのですが、これを次回にとりあげてみようと思います。
では!